アーミティッジ博士のつぶやき

興味関心の赴くままにアーミティッジ博士が語ります

人間椅子とラヴクラフト

ラヴクラフトの残したものの展開というのは本当に深く、幅広い。今の若い世代にはやはりゲームやアニメの世界がもっともなじみ深いと思うが、私にとってはやはり我が国が誇るのロックバンド「人間椅子」を避けて通るわけにはいかない。

私が人間椅子を知ったのは、大学1年生の時だ。語学クラスの同級生がなかなかマニアックな男で、筋肉少女帯の話で盛り上がったのが始まりである。私は高校生の時、友人の勧めで筋肉少女帯を知り、当時発売されていたすべてのアルバムを購入して聞きこんでいた。

その友人が、「筋少が好きなら人間椅子というのもいいぞ」と教えてくれたのである。まさに類は友を呼ぶとはこのことではないか。人間椅子筋少も実は仲良しで、その後ユニットを組んで「地獄のアロハ」という曲をリリースするなどと知ったのはだいぶ後である。

さて、その友人からCDを借りて人間椅子を聞いた私は驚愕した。こんな良い曲と歌詞のバンドがあったとは。私は「イカ天」は見ていなかったので知らなかったのだ。特に「羅生門」という曲が私には響いた。特に「♪この国は誰も鬼の貌(かたち)」という部分が好きで、このような世界観を音楽で表現できると思わなかったのでかなりの衝撃だったのだ。

筋少人間椅子の共通点は、文学を題材にした歌詞があることで、特に、両バンドとも江戸川乱歩については並々ならぬこだわりがあった。かくいう私も高校生の時には江戸川乱歩を読みふけったたちなので、筋少が乱歩を歌詞に取り入れていたのがうれしかったし、人間椅子もバンド名がまさに江戸川乱歩の小説のタイトルそのものであるから、私にとっても入りやすかった。

しかし残念ながら筋少にはラヴクラフトを題材にした曲はなかったのだった。そして、友人から借りた人間椅子の「黄金の夜明け」というアルバムには「狂気山脈」というタイトルがあり、私は小躍りしたものだ。人間椅子のアルバムは最後の曲に最もヘビーで長い曲が来ることがほとんどだが、この「狂気山脈」はアルバムの最期を堂々と飾る曲であった。

この曲の作詞をしている和嶋慎治氏は本当にラヴクラフトが大好きな人で、歌詞を見ても本当に深く読み込んでいるのがわかる。ラヴクラフトの小説「狂気山脈」または「狂気の山脈にて」(At the mountain of madness)の舞台は南極なのだが、人間椅子の歌詞では敢えてチベット、崑崙山など、一見関係ないように思えるものを出しているのも、場所が中央アジアとも南極ともわからず漠然としている「レン高原」のイメージを出したかったのだと思われる。こうしたことを歌詞で表現するのは非常に困難なことであるが、和嶋氏は見事に表現しているのだ。

歌詞についてはまた別途詳述しようと思うが、まずは実際に聞いてみてください(youtubeなどにもいくらでもアップされている)。今まで知らなかった皆さんも人間椅子にハマること請け合いだ。

そのほか、「ダンウィッチの怪」「宇宙からの色」「時間からの影」などストレートな楽曲に加え、「陰獣」「水没都市」など、ラヴクラフトからインスパイアされたと思われるものが、入っている。いずれも名曲なのでぜひ聴いていただきたと思う。

映画とクトゥルー神話

先日書いた通り、NHKBSプレミアムで放送された、ダークサイドミステリーという番組によって私の中に眠っていたラヴクラフト熱が復活し、こうしてブログを書きはじめている。この番組はなかなかよくできていて、ラヴクラフトの影響を受けた映画として「エイリアン」をあげたり、「サイコ」の原作がラヴクラフトの弟子筋のロバート・ブロックであるなど、後世への影響もしっかりと伝えていた。番組では取り上げていなかったが、当然、私と同世代の人間にトラウマを植え付けたあの伝説の映画「遊星からの物体X」も「狂気の山脈にて」の影響を受けていると私は思っている。

いったい、作家の独創性、オリジナリティというものは何だろうか。オリジナリティの語源が「origin」すなわち起源であることからして、後に多くの批評や作品の「元ネタ」になるようなものがオリジナリティある作品だというのを聞いたことがある。

そうした観点からネットを検索していて面白い説に出くわした。スタジオジブリ映画「崖の上のポニョ」がクトゥルー神話の影響を受けているというのだ。それを読んだときには腹の底から笑いがこみあげてきて止めることができなかった。

はじめは荒唐無稽な話と笑っていたが、ポニョのモチーフが「深きものども」で、ポニョのお父さんがオーベッド・マーシュ船長というのはいかにもよくできていて、まったくの偶然にも思えない。もしかしたら宮崎駿監督が50年前にどこかで「インスマスを覆う影」を読んでいて、その記憶がどこか頭の片隅に残っており、「ポニョ」として復活したのかも知らないなと思わざるを得ないのである。

そのほか、トトロがツァトゥグアをモチーフにしているとか、いろいろと出てきているが、本当に面白い。自分でもちょっと考えてみてふと思いついたのは、映画ゴーストバスターズは「ダンウィッチの怪」にインスパイアされるところ大だったのではなかろうか。ゴーストバスターズを起業した3人組は、アーミティッジ博士、ライス教授、モーガン博士の3人とみることができるし(ただし、ゴーストバスターズでは物語の途中でもう一人加わるという違いはある)、元研究者だし。また、最後に巨大な敵(マシュマロマン)に立ち向かっていくあたりも・・・」

そのひとつひとつが本当かどうかわからないが、そうした説が数多く出てくるのもラヴクラフト作品とその世界観がの普遍性であり、まさに多くの作品の起源「origin」そのものであるということだと思う。おそらくラヴクラフト本人もここまで後世に影響を与えるとは思わなかっただろうが。

クトゥルーの復活

このタイトルを見て、「ついに長きにわたりルルイエに眠っていたクトゥルーが復活したのか!」と恐怖に慄いている方々もいると思うが、とんだ早とちりだ。ここで私が言いたいのは、あくまで自分の中でのクトゥルーの復活である。実は学生時代にラヴクラフトクトゥルー神話にハマり、貪るように読んでいた。しかし社会人となって忙しさにかまけ、まったく読まなくなって25年も経ち、記憶からもすっかり抜け落ちていたのだった。ところが、ある出来事をきっかけに私の中で再びラヴクラフトブームが復活したのだ!

そのきっかけとは、NHKBSプレミアムで放送された、ダークサイドミステリー「闇の神話を創った男 H.P.ラヴクラフト」に他ならない。まったく偶然にテレビをつけたらやっていたこの番組が、25年にわたって眠っていた私のラヴクラフト愛(ラヴクラフトラヴ?)を呼び覚ました。恐るべし、クトゥルーの魔力・・・。

番組を見ていて驚いたのだが、現在進行形で今もなおいわゆるクトゥルー神話をモチーフにしたアニメやゲームが根強い人気で、さらに増殖中だというのだ。学生時代にあまりにマニアックすぎてこっそり読んで誰にも語ることができなかったラヴクラフトNHKで特集されていることに感動すら覚えたのだった。

番組自体はラヴクラフトの生い立ちから、ラヴクラフト作品の根幹である「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」の解説、そして、作家仲間との交流とクトゥルー神話への発展など、実にオーソドックスなものだった。作品紹介も「ダゴン」「クトゥルフの呼び声」「狂気の山脈にて」「インスマスを覆う影」と、メジャー作品のオンパレードで、私は見ているうちにかつてのめりこんだラヴクラフトの世界観に再度引き込まれていったのである。

特に、作品紹介の時にラヴクラフト作品の漫画を用いていたのには驚いた。まさか、ラヴクラフトがコミックになっているとは・・・。しかも、その絵の雰囲気が非常に良かった。後で調べてみると田辺剛という漫画家らしい。学生時代に読みながら姿を想像した「古のもの」や「ショゴス」が、なるほど、こういう感じだったのかと納得させるもので、よくラヴクラフトをここまで見事にビジュアル化できたものだと思う。私も思わず感嘆の声を上げざるを得なかった。「テケリ・リ!テケリ・リ!」と。

極めつけは、「インスマスを覆う影」である。かつてTBS系の「ギミア・ぶれいく」という番組内で、佐野史郎主演で制作されたドラマを用いてストーリー解説されたのだ!私はリアルにそのドラマを見ていたので、まさか再度見られるとは思わなかった。「インスマス」を「蔭洲升」という日本の漁村にしてしまうという無理目な設定ながらも、原作の持つ雰囲気を結構うまく再現していたと記憶していたが、本当に懐かしくなってしまった。

結局、私はこの番組によって再びラヴクラフトの世界に導かれてしまったのだ。よく考えてみると私がこの番組を見つけたのも偶然ではないのかもしれない。知らず知らずのうちにインスマスに導かれたマーシュ家の血を引く「わたし」のように・・・。